スポンサーサイト

--.--.--.--:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

#1「あじさい通り」

2010.07.06.21:55

 梅雨入りしたての街は、嫌気がさすほどじめじめしていた。この天気だと今日は晴れる事は無いだろう。そう思うくらいの雨が降っている。
 僕は眠い目をこすりながら自転車にまたがった。学校には行きたくないが、行かないとしょうがない。
 特に誇る物はないし、ちゃんとはなせる友人もいない。だから僕はクラスの損な役担当。行きたくなくなる理由として十分すぎる。
 登校しても声をかけてくれる人など誰もいない。挨拶もなし。しかしもうそんな事には慣れている。いつも通りの事だ。
 ふと窓を見ると、雨が降り続いている。サッカー部と野球部の朝練習も今日は無いようだ。
「おや?」
 窓から目を離そうとした瞬間、一人の女の子が目についた。小走りをしている所を見ると、どうやらかさを忘れたらしい。
「こんな雨の日なのに傘を忘れるなんて、珍しい奴だなぁ。」
 朝からどしゃぶりの雨が降っていたのに傘を忘れてしまったのには、何か重大な理由があるのだろうか? 少し考えてみたが思いつかなかった。思いつく前に先生が来てしまったのだ。
「はいお早うございます。今日は体育館にて全校集会があるので、皆さん並んでください。」
 もう定年間近の担任はそういうと、生徒を廊下に並ばせた。
 体育館の中は蒸し暑かった。これも梅雨の影響なんだろう。快適とは言いがたいが仕方が無い。
 整列して座ると、となりの女子が目についた。いつもはそんな事が無いのに、今日はどうしたんだろう。しかも他のクラスの女子なんて。
 その答えはすぐに見つかった。
「あぁ、今日傘を忘れて走ってた娘だ」
 僕は校長先生そっちのけで、あの娘がなぜ傘を忘れたかについてゆっくり考え始めた。
 遅刻…、いくら遅れそうでも傘くらい持っていくだろう。第一、時間に余裕はあったはずだ。あのときはまだ八時十五分くらいだったのだから。
 盗難…、いや、今時傘なんて百円で買える。もし盗まれていたとしてもすぐに買うだろう。それとも傘が買えない理由でもあったのか。
 もしかしたら、彼女の傘は誰かの形見ではないんだろうか。そうすれば、簡単に傘が買えない事に合点が行く。
 僕は答えの糸口を見つけかけていたが、どうしてもそこから先に進む事が出来ない。そうこうしているうちに校長先生の話が終わり、みんなが起立をした。
 僕は起立をしても、まだあの娘の傘について考えていた。窓の外の紫陽花が、風に揺れていた。紫陽花独特の甘い匂いがする。僕の好きな匂いだ。
 匂いをたどっていくと、あの娘からも紫陽花の甘い匂いが漂っている事に気がついた。香水なのか、シャンプーなのか。おしゃれに興味が無い僕は判断がつかなかったが、いい匂いである事には変わりがない。
 教室に戻り席に着くと、「数学の教師が事情で休み。なので今日は自習」という要な事が黒板に貼ってあった。
 僕はまたあの娘の事について考え始めた。
 あの傘は誰の形見なんだろう? 父親なのか、母親なのか、それとも親友とかなのか。答えは見つからない。そもそも前提が間違っている可能性があるのに、答えをどうやって探せというのか。
 誰に命令された訳でもないのに、だんだんイライラしてきた。
 その日僕は一日中あの娘が傘を忘れていた事について考えていた。と同時に、自分の中に彼女の理想像が出来上がっていくのも感じた。ふと窓で見ただけの娘に頭の中の半分を占拠されるなんて、初めての事だ。多分これからも無いだろう。
 下校前のHR(ホームルーム)が始まった。先生の話を半ばで聞いていると、一足先に終わったクラスが昇降口から急ぎ足で出てくるのが見えた。傘をさしている。雨は朝から降り止まないからだ。
「あの娘、大丈夫かな」
 ダッシュで昇降口から出てくる娘に目をやる。案の定、朝のあの娘だった。やっぱり傘をさしていない。
 僕は、その娘を見ながら一つ願い事をした。普段は神様に願うなんて事をしないが、やっぱり今日だけどうしたんだろう。
「神様、冴えないこの僕の今日一日を楽しませてくれたあの娘が、もう雨に濡れないように、傘を持っていかなくてもすむように、どうかのこの雨を上がらせてください。」
 かなうかどうかは分からない。けど、願ってみるだけ願ってみた。願わないよりかはマシだと思ったからだ。
 HRが終わり、今日一日の大半が終了した。初めてだ。今日という日がこんなに楽しかったのは。そして、あっという間だと感じたのは。
 僕は、あの娘に感謝しつつ自転車にまたがった。サドルが濡れていたがかまわない。僕は合羽も着ずに、びしょぬれの道路を走った。
 紫陽花がたくさん咲いていた。僕は神様にもう一つお願いをした。
「神様、梅雨が明けませんように。世界一楽しい僕の梅雨が、明けませんように…。」
スポンサーサイト
プロフィール

五斂子

Author:五斂子
うつつを抜かしている島根出身の学生。
主にコント(ブラック系や、ドラマ系の奴が好み)やスピッツの事、
適当にでっち上げた企画を書いたりします。
かまってやってください(笑)

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。